16- D- 0317
201 6 年 7 月 2 5 日
地方銀行の 16/ 3 期決算の
注目点
地方銀行各行の16/ 3 期決算および17/ 3 期業績予想を踏まえ、株式会社日本格付研究所(J C R)の現況に 関する認識と格付上の注目点を整理した。
1. 業界動向
16/ 3 期は、国内外において金融市場の変動が比較的大きい1年であった。国内の債券市場では、長期金 利の利回り低下が持続した。とりわけ、日本銀行による所謂マイナス金利政策導入が 16 年 1月に公表され た後は一段と金利水準が低下し、10 年国債利回りは史上初となるマイナス圏へ突入した。また、短期金融市 場においても、T IBOR などの指標レートが過去最低水準まで低下した。国内株式市場は、夏場までは企業業 績の回復や円安などを背景に上昇相場が継続した。ただ、中国経済に対する先行き不透明感や資源価格の大 幅な低下による新興国経済への懸念の高まり、円高が速いペースで進んだことなどを背景に、その後株価が 下落に転じ下げ幅を拡大させた。米中長期国債利回りもグローバル景気の不透明が強まったことなどを背景 に、期末にかけては低下基調となった。一方で、米連邦準備制度理事会(F RB)による政策金利の引き上げ などを受け、短期ゾーンの金利は上昇した。
地方銀行にとって特に収益面での事業環境が厳しさを増すなか、合併・再編などの動きが多くみられた。 以下にあげた 3つの事例は、県内の預貸金シェアトップ行が近隣他県のトップ行と合併・再編するものであ る。規模の拡大という面では、従来に行われてきた再編と比べて効果を出す余地が大きいと考えられる。重 複する支店や業務の集約、それにより産み出される資源を活用した成長に向けた投資などで、合併・再編を 収益力の強化に結び付けていけるか J C R では注目している。
15年10月に熊本県に本店を置く肥後銀行と鹿児島銀行が共同持株会社である九州フィナンシャルグルー プの完全子会社となり経営統合を行った。11 月には茨城県に本店を置く常陽銀行と栃木県に本店を置く足利 ホールディングスが株式交換による経営統合に関する基本合意を決議。16 年 4 月には株式交換比率を決定、 めぶきフィナンシャルグループへ商号変更すると公表した。また、16 年 2 月には、ふくおかフィナンシャル グループと長崎県に本店を置く十八銀行が、経営統合の実現を目指すための協議・検討を進めていくことに ついて基本合意したと公表した。同じく長崎県に本店を置く、ふくおかフィナンシャルグループ傘下の親和 銀行と十八銀行が将来的に合併する方針としている。
2. 決算動向
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株式等関係損益は、上期を中心に株式市況が堅調であったことや、持ち合い解消が進んだことなどから前 期比 38. 2%増と大幅な増益となった。一方、国債等債券関係損益は債券価格の上昇(利回り低下)が続いた にも関わらず前期比で小幅減益となったが、再投資が難しいことから売却益計上を狙った売りが抑制された とみられる。全国的に企業倒産件数が落ち着いて推移していることなどから信用コストは極めて低水準で推 移した。コア業務純益が小幅ながら増益となったことに加え、株式等関係損益を主因に臨時損益の黒字幅が 拡大したことにより、経常利益は前期比 3. 8%の増益。当期純利益は 5 期連続での増益となり、15/ 3 期に法 人税率引き下げに伴い多額の繰延税金資産が取り崩された反動もあり前期比 14.5%の増益となった。
貸出金平残は前期比 3. 7%の増加と、15/ 3 期と同程度の比較的高い伸び率を維持している。貸出先別(末 残・国内店)にみると、中小企業向けが 6期連続で増加しており、貸出金残高の増加を牽引している。残高 の増加率は前期比 4. 8%と、14/ 3 期の同 2.1%増、15/ 3 期の同 3.9%増から増加ペースが加速している。地公 体向けは前期比 4. 2%増、個人向けは同 3. 9%増と、引き続き増勢を維持している。貸出金利回りは前期比 8bp 低下の 1. 30%と低下傾向が続いているものの、14/ 3 期の同 12bp 低下、15/ 3 期の同 9bp 低下から低下幅 が緩和した。貸出金利回りの絶対水準が低下していることに加え、比較的高い利回りが確保できる中小企業 向け貸出の増加幅が拡大したことなどが寄与しているとみられる。
有価証券平残は前期比0. 9%減と、09/ 3 期以来の残高減少となった。円市場金利が低位で推移したことを 背景に投資が抑制され、国債残高が前期比 7. 6%減、地方債残高が同 5. 8%減、公社公団債残高が同 6. 3%減 と、円建債券の残高が大きく減少した影響が大きい。一方、外国証券の残高は前期比 17. 6%の増加と、15/ 3 期の同26. 7%増に続き大きく伸びた。投資信託などを含むその他の有価証券の残高の伸びも前期比 50. 1%の 増加と、15/ 3 期の同54. 8%増に続き大きい。外貨建外債、為替、株式や RE IT など、円建債券に比べてリス クは高いものの比較的高いリターンが見込める資産への残高シフトが鮮明となっている。有価証券利回りは 前期比7bp 改善、3期連続で上昇し1.13%となった。外国証券や投資信託の残高増によるインカム収益に加 え、キャピタル収益的な色彩が強い投資信託の解約益による寄与が大きいとみられる。
預金平残は前期比 3.1%増と、安定的な増加ペースを維持している。預金者別(末残・国内店)にみると、 一般法人預金は前期比 4. 7%増、個人預金が同 1.4%増と増勢を維持した一方、公金預金は同 3. 4%減と減少 に転じた。預金種類別では、要求払い預金が前期比3. 7%増加した一方、定期性預金は同 0. 5%減少した。預 金等利回りは 15/ 3 期と同水準の 0.05%であった。
金融再生法に基づく開示債権額は前期比で 7. 0%の減少と、14/ 3 期の同 8. 3%減、15/ 3 期の同 7. 7%減に 続き比較的大きな減少率となった。総与信に対する開示債権額の比率は2.07%と、前期比で 0. 23%ポイント 低下・改善した。倒産件数が落ち着いて推移しており新規の不良債権発生が抑制されていることに加え、正 常債権が増加していることも寄与している。
連結自己資本比率は、国内基準行(54 行)は 10. 67%と前期比 0. 35%ポイント低下、国際基準行(10 行) は 14. 59%と同 0. 68%ポイント低下した。貸出金残高増などに伴うリスクアセットの増加が影響したとみら れる。また、内部留保が積み上がっている一方で、適格旧 T ier1 資本、適格 旧 T ier2 資本(優先株、劣後 債)の償還や、算入限度額引き下げなどがコア資本の減少要因となっている。
3. 格付上の
注目点
競合激化の影響がどれだけ深刻化するかフォローしていく。貸出先別構成比の違いによって、貸出金利回り 低下の圧力は異なってくる点には注意を要する。また、貸出金利回りの維持・向上に向け、事業性評価など も背景に従前に比べてより踏み込んで信用リスクテイクを行う動きがみられることから、信用リスク管理の 状況については引き続き確認していく。有価証券運用においても、環境は厳しさを増している。ポートフォ リオのコアである円建債券は、利回り水準が一段と低下しており、新規投資および再投資が従来以上に困難 な状況となっている。円建債券を代替する投資先として有望であった米中長期国債は、利回りが低下してい ることに加え、原資となるドル資金の調達コストが上昇しており、収益性は従前に比べて大きく低下してい る。投資信託については、RE IT など利回りを確保できる投資対象が残るものの、株式や為替リスクを内包 するかたちでの投資についてはインカム・キャピタル収益に評価損益の増減を加えた総合的な利回りが大き く低下しているとみられる。また、リスク管理の面からも、過大な価格変動リスクおよび金利リスクをとっ ていないか確認していく必要がある。
資金利益の維持・拡大が厳しい中で、非金利収益の拡大で収益を下支えする方針を打ち出している銀行が 多くみられる。中心となる預り資産販売では、営業人員の投入、システム投資、商品ラインナップ拡充など で業容拡大に注力してきている。ただし、最近の株式市況の軟化や為替の円高進展などを勘案すると、投資 信託や生命保険の販売額を持続的に拡大することは容易ではなく、今後の進捗を見守っていく必要がある。 また、法人向けフィービジネスの強化など、収益源多様化の進展度合いについても注目していく。
経費については、16/ 3 期に生じた預金保険料率引き下げのようなインパクトのある経費減の材料が乏し い。一方で、基幹システムの更新などに伴う物件費の増加や、円長期金利の低下による退職給付費用の増加 が人件費増加要因となる事例もみられる。
J C R では銀行等の格付に際し、事業基盤および財務基盤への評価を重視している。財務基盤は、資本充実 度や貸出資産の質、収益力などにポイント置いている。地方銀行の資本水準は、ヒストリカルにみて高い水 準にある。企業倒産件数が低水準で推移するなか貸出資産の質は改善傾向にあり、このため与信費用は抑制 されている。ただし、足元の状況が中長期にわたり継続するとは考えにくく、また、個別行でみると大口与 信先に係る信用リスクを期間利益や自己資本対比で大きく抱えているようなケースも見受けられる。基礎的 な収益力へは低下圧力が一段と強まっており、格付対比でみて収益力が見劣りする場合は格付上もネガティ ブな評価をしていく方針である。特に、基礎的収益によって今後想定される信用コストを十分に吸収できな いと判断されるケースなどでは、実際に格付および見通しを変更した事例も多い。
資金運用利回りは変動が想定されうるものであり、現段階では、足元における各種利回り低下を主因とす る収益力の悪化を、地方銀行全体に対する構造的な格下げ要因とは捉えてはいない。今後、マイナス金利政 策が一段と強化され、または、長期化するケースでは、収益へマイナスの影響が一段と高まる可能性がある。 その際にも、資本充実度や貸出資産の質に対する評価とのバランスを勘案しつつ、各行ごとに収益力梃入れ への対応余地を見極め評価していく方針である。
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(図表 1)損益推移
-698
5,516 5,427 5,794 6,496
7,808 8,211 9,403 14,200
13,298
12,750 12,337
11,969 11,911 12,128 12,191
-2,000 0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 12,000 14,000 16,000
09/ 3期 10/ 3期 11/ 3期 12/ 3期 13/ 3期 14/ 3期 15/ 3期 16/ 3期
当期純利益 コア業務純益
(億円)
(図表 2)貸出先別の貸出金残高増減(末残)
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0
11/ 3期 12/ 3期 13/ 3期 14/ 3期 15/ 3期 16/ 3期
(兆円)
法人(除中小)
中小企業
地方公共団体
個人
(図表 3)利回りの推移
2.12 1.93 1.82 1.71 1.59 1.47 1.38 1.30 1.42 1.26 1.19 1.1
1.0 1.05 1.06
1.13
0.29
0.19
0.12 0.09 0.07
0.06 0.05 0.05
1.83 1.74 1.7 1.62 1.52 1.41 1.33 1.25 0.00 0.20 0.40 0.60 0.80 1.00 1.20 1.40 1.60 1.80 2.00 2.20 2.40
09/ 3期 10/ 3期 11/ 3期 12/ 3期 13/ 3期 14/ 3期 15/ 3期 16/ 3期
貸出金利回り 有価証券利回り 預金等利回り 預貸金利回り差
(図表 4)与信費用・与信費用比率の推移とコア業務純益との比較
14,200 13,298
12,750 12,337
11,969 11,911 12,128 12,191
8,140
5,074
3,485
1,587
2,209
782
388 372
0bp 10bp 20bp 30bp 40bp 50bp 60bp 70bp
0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 12,000 14,000 16,000
09/ 3期 10/ 3期 11/ 3期 12/ 3期 13/ 3期 14/ 3期 15/ 3期 16/ 3期
コア業務純益 与信費用 与信費用比率(右軸) (億円)
(図表 5)資本水準の推移(連結、国内基準行のみ)
10.66
11.56 11.82 11.9 11.89
8.42
9.15 9.47 9.70
9.90
11.66
11.02
10.67
0 2 4 6 8 10 12 14
09/ 3期 10/ 3期 11/ 3期 12/ 3期 13/ 3期 14/ 3期 15/ 3期 16/ 3期
自己資本比率 Tier1比率 コア資本比率
(%)
(出所:地方銀行協会データより J C R 作成)
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